令和6年(2024年)度の改定から長期収載品の選定療養の仕組みが導入されました。
2024年10月より、患者さんの希望で後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)を選択する場合は、その差額の一部を患者さん自身で負担することになります。
ここでは、長期収載品の選定療養の仕組みについて、以下の疑問にお答えします。
本記事でわかること
- 長期収載品の選定療養とは?
- 選定療養の対象医薬品は?
- 負担額の計算は?
- 公費や生活保護の場合は?
- 変更不可にチェックがある場合は?
- 薬局に在庫がなくて先発品を調剤する場合は?
- 患者さんへの説明は?
長期収載品の選定療養とは?
「選定療養」とは、患者さんが追加の費用を負担することで、保険適用外の治療やサービスを保険適用の治療やサービスに併せて受けることができる制度です。
例えば、入院時の病室を通常の大部屋から患者さんの希望で個室に変更した際にかかる差額ベッド代などが選定療養にあたります。
「長期収載品の選定療養」とは、後発医薬品のある先発医薬品(長期収載品)について、患者さんの希望で先発医薬品を選択する場合に、その差額の一部を患者さん自身で負担する仕組みのことです。
令和6年(2024年)10月1日から、この仕組みが導入されます。
選定療養の対象医薬品は?
選定療養の対象となる「長期収載品」とは、上市後一定期間を経過、あるいは後発品への切り替えが進んだ医薬品です。
以下の条件を満たす医薬品が対象となります。
長期収載品の選定療養の対象医薬品
長期収載品の選定療養の対象となる医薬品は、次の①~③を全て満たすものとする。
- 後発医薬品のある先発医薬品
- 後発医薬品が収載された年数、後発品置換率について次のいずれかに該当
- 後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過した品目(後発品置換え率が1%未満のものは除く)
- 後発医薬品が初めて薬価基準に収載されてから5年を経過しない品目のうち、後発品置換え率が50%以上
- 長期収載品の薬価が、後発医薬品のうち最も薬価が高いものの薬価を超えている
全ての医薬品が選定療養の対象となるわけではありません。
選定療養の対象医薬品については、以下リンク(厚生労働省のページ)より検索できます。
選定療養の負担金の計算は?
選定療養の対象となる医薬品(長期収載品)について、患者さんが先発医薬品を希望する場合は、追加の費用(選定療養の負担金)が発生します。
追加の費用(選定療養の負担金)は、先発医薬品と後発医薬品の価格差の4分の1相当の料金です。
通常の保険適用の負担金にプラスで、選定療養の負担金を患者さんに支払ってもらうことになります。
また、選定療養の負担金の計算では以下の点に注意が必要です。
- 選定療養の負担金は課税対象のため、消費税がかかる
- 後発医薬品が複数存在する場合は、薬価が一番高い後発医薬品との価格差で計算する
選定療養は公費や生活保護も対象?
公費の方の場合
長期収載品の選定療養の仕組みは、公費のある方も対象となります。
そのため、患者さんの希望で先発医薬品を調剤する場合は、選定療養の対象となり追加の費用(選定療養の負担金)が発生します。
なお、医療上の必要性があり先発医薬品を調剤する場合は、今までと同じように保険適応(公費適応)となります。
疑義解釈
医療保険に加入している患者であって、かつ、国の公費負担医療制度により一部負担金が助成等されている患者が長期収載品を希望した場合について、長期収載品の選定療養の対象としているか。
長期収載品の選定療養の制度趣旨は、医療上必要があると認められる場合等は、従来通りの保険給付としつつ、それ以外の場合に患者が長期収載品を希望する場合は、選定療養の対象とすることとしたものであることから、今般、対象外の者は設けておらず、国の公費負担医療制度の対象となっている患者が長期収載品を希望した場合についても、他の患者と同様に、長期収載品の選定療養の対象となる。
なお、医療上必要があると認められる場合に該当する場合は、従来通りの保険給付として差し支えない。
医療保険に加入している患者であって、かつ、こども医療費助成等のいわゆる地方単独の公費負担医療の対象となっている患者が長期収載品を希望した場合について、長期収載品の選定療養の対象としているか。
長期収載品の選定療養の制度趣旨は、医療上必要があると認められる場合等は、従来通りの保険給付としつつ、それ以外の場合に患者が長期収載品を希望する場合は、選定療養の対象とすることとしたものであることから、今般、対象外の者は設けておらず、こども医療費助成等のいわゆる地方単独の公費負担医療が対象となっている患者が長期収載品を希望した場合についても、他の患者と同様に、長期収載品の選定療養の対象となる。
なお、医療上必要があると認められる場合に該当する場合は、従来通りの保険給付として差し支えない。
生活保護の方の場合
生活保護の方については、「医療上の必要」がある場合を除き後発医薬品での調剤が基本となるため、患者さんの希望で先発医薬品を調剤する場合は想定されていません。
そのため、患者希望で先発医薬品を調剤する場合に発生する追加の費用(選定療養の負担金)も生じるケースはないものとされています。
疑義解釈
生活保護受給者である患者が長期収載品を希望した場合は、どのように取り扱うことになるのか。
【長期収載品の処方等が医療扶助の支給対象にならない場合】
「生活保護法第五十二条第二項の規定による診療方針及び診療報酬」(昭和34 年厚生省告示第125 号)第2に基づき、生活保護受給者については、長期入院選定療養以外の選定療養は医療扶助の支給対象とはならないとしている。
このため、生活保護受給者である患者が、医療上必要があると認められないにもかかわらず、単にその嗜好から長期収載品の処方等又は調剤を希望する場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象とはならないため、生活保護法(昭和25年法律第144号)第34条第3項に基づき、後発医薬品処方等又は調剤を行うこととなる。
【長期収載品の処方等が医療扶助の支給対象になる場合】
長期収載品の処方等を行うことに医療上必要があると認められる場合は、当該長期収載品は医療扶助の支給対象となる。生活保護受給者である患者が、単にその嗜好から長期収載品を選択した場合、「特別の料金」を徴収するのか。
生活保護受給者である患者について、医療上の必要性があると認められず、かつ、保険医療機関又は保険薬局において後発医薬品を提供することが可能である場合は、長期収載品を医療扶助又は保険給付の支給対象として処方等又は調剤することはできないため、当該患者が単にその嗜好から長期収載品を希望した場合であっても、後発医薬品を処方等又は調剤することとなる。
そのため、「特別の料金」を徴収するケースは生じない。
処方箋の記載は?変更不可にチェックがある場合は?
処方箋の記載としては、変更不可欄に「医療上必要」「患者希望」の欄が新設されます。
「変更不可(医療上必要)」の欄にチェックがある場合は選定療養の対象とならず、保険給付の対象となります。
「変更不可(患者希望)」の欄にチェックがある場合は選定療養の対象となり、患者さんの追加費用(選定療養の負担金)が発生します。
また、旧様式(「医療上必要」「患者希望」の変更不可の理由の記載なし)の処方箋で変更不可にチェックがある場合は、疑義紹介等でどちらの理由に該当するか確認するようにと疑義解釈にて示されています。
疑義解釈
令和6年10月1日以降に旧様式の処方箋で処方された長期収載品であって、後発品変更不可にチェックがあるものの、理由について記載がされていないものについてどう扱えばよいか。
保険薬局から処方医師に対して疑義照会を行う等の対応を行うこと。
他にも、令和6年10月1日以前に発行された処方箋を10月1日以降に受け付けた場合は、選定療養の制度が始まる前の仕組み(今までの保険給付の仕組み)に従って調剤するとの疑義解釈が出ています。
疑義解釈
令和6年10月1日前に処方された長期収載品であって、保険薬局に10月1日以降に処方箋が持ち込まれた場合は制度施行前の取扱いとなるのか。
そのとおり。
令和6年10月1日前に処方された長期収載品であって、保険薬局に10月1日以降に2回目以降の調剤のためにリフィル処方箋や分割指示のある処方箋が持ち込まれた場合は制度施行前の取扱いとなるのか。
そのとおり。
医療上の必要がある場合とは?
選定療養の対象外となる「医療上の必要」がある場合については、疑義解釈で具体例が示されています。
「医療上の必要」がある場合とは?
- 薬事上承認された効果・効能に差異がある場合
- 副作用、他の医薬品との飲み合わせによる相互作用、治療効果に差があったと医師が判断する場合
- ガイドライン上で、後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合
- 剤形上の違いにより必要と判断する場合(単なる剤形の好みは✕)
(出典:長期収載品の処方等又は調剤の取扱いに関する疑義解釈資料の送付について(その1)令和6年7月12日事務連絡|厚生労働省)
①の「薬事承認された効能効果に差がある場合」については、日本ジェネリック製薬協会のページが参考になります。
>>効能効果、用法用量等に違いのある後発医薬品リスト|日本ジェネリック製薬協会
③の「ガイドライン上で、後発医薬品へ切り替えないことが推奨されている場合」については、てんかんの薬などが該当します。
「後発医薬品への切り替えに関して、発作が抑制されている患者では、服用中の薬剤を切り替えないことを推奨する。先発医薬品と後発医薬品、あるいは後発医薬品同士の切り替えに際しては、医療者および患者の同意が不可欠である。」
(てんかん診療ガイドライン2018より引用)
ガイドラインの内容を踏まえて医師等が医療上の必要があると判断する場合は、選定療養の対象外となります。
④の「剤形上の違いにより必要と判断する場合」については、後発医薬品の剤形では飲みにくい、吸湿性等の理由により一包化できないなどの場合が該当します。
単に剤形の好みによるものは含まれません。
剤形上の違いにより必要と判断する場合について、
- 嚥下の問題があるが、先発品にしかOD錠がない場合
- 一包化にあたり、先発品は一包化可能だが、後発品は一包化不可の場合
- 軟膏の混合で、先発品は混合可能だが、後発品は混合不可(あるいは混合データなし)の場合
- コンタクトレンズ使用者で、先発品はコンタクトのまま点眼可能だが、後発品は点眼不可の場合
などが該当するのではないかと思います。
ちなみに、味の好みによるものは含まれません。
また、使用感についても医療上の必要性に含まないと疑義解釈にて示されています。
疑義解釈
使用感など、有効成分等と直接関係のない理由で、長期収載品の医療上の必要性を認めることは可能か。
基本的には使用感などについては医療上の必要性としては想定していない。
なお、医師等が問1の①~④に該当すると判断し、長期収載品を処方等する医療上の必要があると判断する場合であれば、保険給付となる。
薬局に在庫がなくて先発医薬品を調剤する場合は?
薬局に在庫がなくて先発医薬品を調剤する場合は、選定療養の対象外となり、従来通りの保険給付の対象となります。
出荷調整等で後発医薬品を入手できない場合をはじめ、薬局に在庫がないことが理由で先発医薬品を調剤する場合は、選定療養の対象とはなりません。
疑義解釈
「当該保険医療機関又は保険薬局において、後発医薬品の在庫状況等を踏まえ、後発医薬品を提供することが困難な場合」について、出荷停止、出荷調整等の安定供給に支障が生じている品目かどうかで判断するのではなく、あくまで、現に、当該保険医療機関又は保険薬局において、後発医薬品を提供することが困難かどうかで判断するということでよいか。
そのとおり。
選定療養の患者さんへの説明は?
厚生労働省のホームページで、医療機関・薬局での掲示ポスターと窓口での案内チラシが公開されています。
長期収載品の選定療養の概要や、負担金の計算方法、Q&Aなどがまとまっているので、こちらを用いて患者さんへ説明するのが良いと思います。
また、患者さんへ選定療養の説明を行った際には「特定薬剤管理指導加算3のロ」(5点)を算定できます。
「特定薬剤管理指導加算3のロ」は、選定療養の対象となる先発医薬品を選択しようとする患者さんに対して説明を行った場合に、患者さん1人につき1回に限り算定できます。
また、説明の結果、患者さんが先発品・後発品どちらを選択したとしても算定できます。
特定薬剤管理指導加算3の「ロ」の後発医薬品が存在する先発医薬品であって、一般名処方又は銘柄名処方された医薬品について、選定療養の対象となる先発医薬品を選択しようとする患者に対して説明を行った場合には、患者が先発医薬品を希望しているにもかかわらず、説明の結果、後発医薬品を選択して選定療養とならなかった場合も算定可能か。
可能である。
選定療養の説明を行った際は、加算算定済みであること、説明の結果どうなったかを、薬歴の申し送りなどに記載してわかるようにしておくといいでしょう。
なお、特定薬剤管理指導加算3のロは、制度が始まる2024年10月1日以前から算定できます。
長期収載品の処方等又は調剤について選定療養の仕組み(以下「本制度」という。)が導入される令和6年10月1日より前の時点で、本制度の対象となる医薬品について患者に対して説明を行った場合、特定薬剤管理指導加算3の「ロ」は算定できるか。
本制度に関し、調剤前に医薬品の選択に係る情報が特に必要な患者に対し、当該患者が求める情報について必要かつ十分な説明を行えば算定することができる。
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特定薬剤管理指導加算1・3の算定要件と疑義解釈まとめ【令和6年(2024年)度改定】
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さいごに(選定療養に関する薬局での運用例)
長期収載品の選定療養に関する患者さんへの説明は、10月の制度開始前より始めておくのがおすすめです。
「なんでいきなり負担が上がったの💢」といったトラブルを防ぐために、事前に説明しておくのがいいでしょう。
選定療養の対象となる先発医薬品を希望する患者さんに対して、
- 10月より選定療養の仕組みが導入されること
- 今後も先発医薬品を希望する場合は負担が上がること
を説明し、今後の希望を確認します。
少し考えたいという患者さんには、リーフレット(厚生労働省のホームページよりダウンロード)を渡して次回来局時までに考えておいてもらいましょう。
また、選定療養の説明を行った際は「特定薬剤管理指導加算3のロ」を算定できます。
算定した際は、薬歴に以下の内容を記載しておきましょう。
- 薬歴の指導内容に、選定療養の説明を行ったことを記載
- 薬歴の申し送りに、加算算定済みであることと次回からの希望(先発・後発・検討中)を記載
患者さん1人につき1回のみの算定なので、同じ患者さんに重複して算定しないよう申し送りに入れておくのがおすすめです。
患者さんからは、
「いくら負担が上がるの?」
と聞かれることが多いですが、先発品と後発品の差額の1/4に1日量と30日をかけて、
「1ヶ月でだいたい100円くらい今より負担が上がります」
のようにざっくりとした金額を伝えるとわかっていただけることが多いです。
実際の計算はもっと複雑で消費税などもかかってきますが、おおまかな金額を伝える方が患者さんもイメージしやすいように感じています。
また、薬情などに先発品と後発品の薬価を表示させる設定にしておくと、それを見ながら説明できて便利です。
他にも、長期収載品の選定療養の自己負担額を計算できるツールを何人かの方が作成してくれているので、そういったものを活用するのもいいかもしれません。
新しい制度の始まりは戸惑うことも多いですが、今回の内容を参考にしていただけたら嬉しいです。