「特定薬剤管理指導加算1」は、特に安全管理が必要な医薬品(ハイリスク薬)が処方された患者さんに対して必要な指導を行った際に算定できる加算です。
いわゆる「ハイリスク薬加算」「ハイリスク加算」と言われるものです。
令和6年度(2024年度)調剤報酬改定では、この特定薬剤管理指導加算1(ハイリスク薬加算)の内容に変更がありました。
ここでは、
本記事でわかること
- 特定薬剤管理指導加算1の算定要件は?
- 特定薬剤管理指導加算1の今年度改定での変更点は?
- 特定薬剤管理指導加算1の疑義解釈の内容は?
- ハイリスク薬に該当する薬は?
- ハイリスク薬の服薬指導で確認すべき内容は?
といった疑問にお答えします。
特定薬剤管理指導加算1の算定要件と疑義解釈
特管1:算定要件
まずは、特定薬剤管理指導加算1の算定要件についてです。
特定薬剤管理指導加算1(イ:10点、ロ:5点)
特定薬剤管理指導加算1は、服薬管理指導料を算定するに当たって行った薬剤の管理及び指導等に加えて、特に安全管理が必要な医薬品が処方された患者又はその家族等に当該薬剤が特に安全管理が必要な医薬品である旨を伝え、当該薬剤についてこれまでの指導内容等も踏まえ適切な指導を行った場合に算定する。
(イ)新たに当該医薬品が処方された場合(10点)
(ロ)次のいずれかに該当する患者に対して指導を行った場合(5点)
- 用法又は用量の変更に伴い保険薬剤師が必要と認めて指導を行った患者
- 患者の副作用の発現状況、服薬状況等の変化に基づき保険薬剤師が必要と認めて指導を行った患者
(出典:診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知) 令和6年3月5日 保医発0305第4号 別添3 調剤報酬点数表に関する事項 |厚生労働省)
今までは、「特に安全管理が必要な医薬品が処方された患者に対して必要な薬学的管理及び指導を行った場合」とだけされていましたが、今年度改定で算定できる場面が明確化されました。
算定できる場面が明確化されたことで、いわゆる「ベタ取り」ができなくなりました。
特管1:算定の注意点(疑義解釈)
次に、「特定薬剤管理指導加算1」の算定時の注意点についてです。
- 処方箋受付1回につき1回のみ算定できる
- 「イ」「ロ」は同時算定できない
- 「イ」は、当薬局では新規でも他薬局での継続薬であれば算定できない
- 「イ」は、同一成分の単なる銘柄変更(例:トーワ→サワイなど)では算定できない
- 薬歴へは「確認した内容や行った指導の要点」の記載を行う
- ハイリスク薬が複数処方されている場合、薬剤師が必要と認める薬学的管理及び指導を行う(2022年度改定時の「全て」の記載が削除)
特定薬剤管理指導加算1は、処方箋受付1回につき1回のみ算定できます。
一つの処方箋内でハイリスク薬が複数処方されており、「イ」に該当する薬と「ロ」に該当する薬がある場合、「イ」「ロ」は同時算定できません。
どちらか一方のみ算定します。
特定薬剤管理指導加算1について、「イ」又は「ロ」に該当する複数の医薬品がそれぞれ処方されている場合に、「イ」及び「ロ」はそれぞれ算定可能か。
特定薬剤管理指導加算1はハイリスク薬に係る処方に対して評価するものであり、1回の処方で「イ」又は「ロ」に該当する複数の医薬品が存在し、それぞれについて必要な指導を行った場合であっても、「イ」又は「ロ」のみ算定すること。
また、特管1の「イ」を算定するには、その患者さんに対して成分として初めて処方されている必要があります。
当薬局では新規だが他薬局でもらって継続中の薬の場合、同一成分の異なる銘柄変更(先発品→後発品、後発品のメーカー変更など)の場合は、特管1の「イ」は算定できません。
「イ」は算定できませんが、「副作用の発現状況、服薬状況等の変化に基づき薬剤師が必要と認めて指導を行った場合」に該当すれば、「ロ」は算定できます。
特定薬剤管理指導加算1の「イ」について、以下の場合には算定できないと考えてよいか。
① 患者としては継続して使用している医薬品ではあるが、当該薬局において初めて患者の処方を受け付けた場合
② 同一成分の異なる銘柄の医薬品に変更された場合いずれもそのとおり。なお、いずれの場合においても、保険薬剤師が必要と認めて指導を行った場合には、要件をみたせば特定薬剤管理指導加算1の「ロ」が算定可能。
薬歴には、確認した内容や行った指導の要点を記載します。
ハイリスク薬が複数処方されている場合、今までは、「全て」のハイリスク薬について指導を行い薬歴に記載を残す必要がありましたが、今年度改定では「全て」について行わなくてもよくなりました。
「全て」の記載がなくなり、「薬剤師が必要と認める指導を行う」と記載されています。
令和4年度改定 (2022年) | 特に安全管理が必要な医薬品が複数処方されている場合には、その全てについて必要な薬学的管理及び指導を行うこと。 (出典:診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知)令和4年3月4日 医発0304第1号 別添3 調剤報酬点数表に関する事項|厚生労働省) |
令和6年度改定 (2024年) | 特に安全管理が必要な医薬品が複数処方されている場合には、保険薬剤師が必要と認める薬学的管理及び指導を行うこと。 (出典:診療報酬の算定方法の一部改正に伴う実施上の留意事項について(通知) 令和6年3月5日 保医発0305第4号 別添3 調剤報酬点数表に関する事項 |厚生労働省) |
特管1のまとめ
- ハイリスク薬の処方時、新規処方なら「イ」を算定
- ハイリスク薬の処方時、用法用量が変更になってれば「ロ」を算定
- 投薬時、患者さんから副作用等の訴えがあり必要な指導を行った場合は「ロ」を算定
-
特定薬剤管理指導加算1・3の算定要件と疑義解釈まとめ【令和6年(2024年)度改定】
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ハイリスク薬の対象薬剤
特定薬剤管理指導加算1の算定の対象となる「特に安全管理が必要な医薬品(ハイリスク薬)」は、以下に該当するものをいいます。
特に安全管理が必要な医薬品(ハイリスク薬)
- 抗悪性腫瘍剤
- 免疫抑制剤
- 不整脈用剤
- 抗てんかん剤
- 血液凝固阻止剤(内服薬に限る)
- ジギタリス製剤
- テオフィリン製剤
- カリウム製剤(注射薬に限る)
- 精神神経用剤
- 糖尿病用剤
- 膵臓ホルモン剤
- 抗HIV薬
また、特定薬剤管理指導加算1の算定対象となる「特に安全管理が必要な医薬品(ハイリスク薬)」の一覧は、厚生労働省の「診療報酬情報提供サービス」ページより確認できます。
>>特定薬剤管理指導加算等の算定対象となる薬剤一覧|厚生労働省
ただし、原則として対象疾患を指定しているので、同じ薬でも疾患によっては対象とならない点に注意が必要です。
(例)
メインテート | ⭕不整脈 | ❌高血圧、狭心症 |
ベンザリン | ⭕てんかん | ❌不眠症 |
デパス | ⭕神経症、うつ病 | ❌心身症、頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛、睡眠障害 |
フォシーガ | ⭕糖尿病 | ❌慢性心不全、慢性腎臓病 |
例えば、メインテートなら、不整脈に対して処方されている場合は特定薬剤管理指導加算1の算定対象ですが、高血圧症や狭心症に対して処方されている場合は対象となりません。
同様に、デパスも、神経症やうつ病に対して処方されているなら精神神経用剤に該当し特定薬剤管理指導加算1の算定対象となりますが、腰痛症や睡眠障害等で処方されている場合は対象となりません。
複数適応のあるハイリスク薬の場合は、何の疾患に対して処方されているかを確認する必要があります。
ハイリスク薬の服薬指導と薬歴
ハイリスク薬の服薬指導
特に安全管理が必要な薬剤(ハイリスク薬)の服薬指導においては、日本薬剤師会の「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン(第2版)」が参考になります。
上記ガイドラインでは、全てのハイリスク薬に共通する確認事項として、以下の5項目が示されています。
- 処方内容(薬剤名、用法・用量等)の確認
- アドヒアランスの確認(飲み忘れ時の対応を含む)
- 副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育
- 効果の確認(適正な用量、可能な場合の検査値のモニター)
- 相互作用の確認(併用薬、OTC、サプリメント、食事等)
これら5項目に加え、各薬効群に対応した確認項目がそれぞれ示されています。
本記事では、ガイドラインの中から、各薬効群に特徴的な確認事項を抜粋して以下にまとめました。
抗悪性腫瘍剤
- 投与期間、休薬期間等の確認
- 化学療法に対する不安への対応、外来化学療法実施の際に受けた指導内容や提供された情報の確認
- 患者に最適な疼痛緩和のための情報収集、処方提案と患者への説明、麻薬の使用確認
- 支持療法の処方・使用の確認あるいは必要に応じた支持療法の提案等
免疫抑制剤
- 投与期間、休薬期間等の確認
- 感染症の発症や悪化防止のための注意事項の説明
- 感染症の発症等の副作用モニタリング
- グレープフルーツジュース等の飲食物との相互作用の確認
不整脈用剤
- ふらつき、動悸、低血糖等の副作用モニタリング
- 催不整脈等、重篤な副作用発生時の対処方法の教育
- 最近の発作状況を聞き取り、効果の確認
- QT延長を起こしやすい薬剤等、相互作用の確認
抗てんかん剤
- 最近の発作状況を聞き取り、効果の確認
血液凝固阻止剤(内服薬に限る)
- 検査・手術前・抜歯時の服薬休止、検査・手術後・抜歯後の服薬再開の確認等、服薬管理の徹底
- 服用中は出血傾向となるので、過量投与の兆候(あざ、歯茎からの出血等)の確認とその対策
- 納豆等、食事との相互作用の確認
- 日常生活(閉経前の女性に対する生理中の生活指導等)での注意点の指導
ジギタリス製剤
- ジギタリス中毒症状(食欲不振、悪心・嘔吐、めまい、頭痛、不整脈)の発現の確認とその対策
- K排泄型利尿薬、Ca含有製剤、β遮断薬等、併用薬及び食事との相互作用の確認
テオフィリン製剤
- 悪心、嘔吐、けいれん、頻脈等、過量服用に伴う副作用症状について説明とモニタリング
- 喫煙、カフェイン摂取等の嗜好歴の確認
- 小児、特に乳幼児では、副作用防止のため発熱時の対応について指導
精神神経用剤
- 服薬への意識が低い患者及び患者家族への教育とアドヒアランスの向上
- 副作用モニタリング及び重篤な副作用発生時の対処方法の教育
- 原疾患の症状と類似した副作用(錐体外路症状、パーキンソン症候群等)
- 致死的副作用(悪性症候群、セロトニン症候群等)
- 非定型抗精神病薬による、血液疾患、内分泌疾患等
- 転倒に関する注意喚起
- 薬物の依存傾向を示す患者等に対して、治療開始時における適正な薬物療法の情報を提供
- 自殺企図等による過量服薬の危険性のある患者の把握と服薬管理の徹底
糖尿病用剤・膵臓ホルモン剤
- Sick Day(シックデイ)時の対処法についての指導
- 低血糖及び低血糖状態出現時の自覚症状とその対処法の指導
- HbA1cや血糖値等、検査値のモニター
- 注射手技の確認(薬剤の保管方法、空打ちの意義、投与部位等)、注射針の取り扱い方法についての指導
抗HIV薬
- 服用回数や時間がライフスタイルと合致しているかの確認
- アドヒアランス低下による薬剤耐性HIV出現のリスクについての説明
- 重大な副作用発見のため、発熱、発疹等の初期症状について指導し、体調変化の有無について確認
日本薬剤師会の『「薬局におけるハイリスク薬の薬学的管理指導に関する業務ガイドライン」(第2版)について』のページに、各薬効群の薬学的管理において注意すべき事項を表にまとめたものが公開されているのでそちらも参照ください。
>>「ハイリスク薬」の薬学的管理指導において特に注意すべき事項|日本薬剤師会
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特定薬剤管理指導加算1・3の算定要件と疑義解釈まとめ【令和6年(2024年)度改定】
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